写真館 二千年一夜












































SL人吉号
熊本県坂本村
2005年8月21日






SL人吉号は、蒸気機関車牽引による臨時快速列車として熊本駅から人吉駅間を鹿児島本線、肥薩線経由で運行している。
熊本駅から宮地駅間運行の快速「SLあそBOY」として営業運転していたが、
人吉市に保存されていた縁もあり、SL人吉号としても運行されていた。
2005年に車両故障を起こし修復不能と判断されたことから8月28日に運転終了。
その後、修復され2009年に熊本駅から人吉駅間で運転開始された。


〜goodtimeの追想〜

坂本の道の駅で車中泊、6時10分、雨の音で目が覚める。
雨が止むことに期待していたが、止んでるところか強い雨が降っており、今日の撮影が思いやられる。
上りの撮影は第一橋りょうと決めているので、下りの撮影場所を見つけなければならない。
しかし、生憎の雨では窓を開けて走ることも出来ず、窓は曇って外の状況が把握出来ない。
あまりよそ見をして運転する訳にもいかず、現地調査は難航した。
雨が止まなければ、停車駅付近で撮影することを考えていたので、とりあえず人吉駅まで行ってみた。
今日の人吉駅はSL運行最終日でイベントなども行いホームはきっと大混雑するはず。
そんな中での撮影は極めて困難であり、また自分の描いている構図とは少しかけ離れているので人吉に向けて走りながら迷っていた。
しばらく走っていると雨が止み、厚い雨雲の隙間から青い空が見えてきた。
昨日は、晴れの予報が雨となり、今日は雨の予報が晴れとなった。
山の天気はわからない。

途中、たくさんの人だかりに遭遇した。
この場所はネットで見覚えがあり、それは瀬戸石ダム付近で球磨川沿いに走行するSL人吉号の人気撮影スポットの1つだった。
近くの瀬戸石駅から出発するため煙は大いに期待出来る。
ここなら自分の描いていた構図に近いかもしれない。
SLあそboyが山らしい構図なら、SL人吉号は川らしい構図にするのが今回の拘ったテーマであった。
少し見せていた青空も次第に広々とした青空となり、雲と雲との間に暑く眩しい日差しが照り始め、
まさに絶好のSL撮影日和となった。
時刻が迫るにつれてカメラマンも多くなり、スペースがあった道路沿いも徐々に埋まってきた。
昨日のようにギュウギュウ詰めでの撮影にはなりそうにないが、
線路沿いにある狭い道に車が止まった時には、笛やハンドマイクを使って野次が飛んでいた。
山の中なのでよく響く。
10時50分、SLの汽笛が聞こえてきた。
黒煙も確認されるとカメラマンが一斉に撮影態勢に入る。
この緊張感はまさに花火撮影と同じかもしれない。
そして、たくさんの煙を吐き出しながら通過していった。
球磨川を挟んでの撮影だったので迫力は欠けるものの、
廻りに障害物がないので、川沿いに走るSLがいつまでも見ることの出来る見学スポットとしては最適な場所だった。


第1橋りょうに移動。
ありがちな構図で撮ろうと考えていたが、国道側から見る景色があまりにも綺麗だったので
この風景の中を走るSLだったらきっと人吉号ならではの絵になるのでは?と思っていた。
昨日の朝に阿蘇の撮影現場でSL会話で盛り上がった青年とおじさんに遭遇。
横浜から来た青年は、今日は八代からレンタカーを借りて参戦。
午前中の大雨だけにレンタカーは正解だっただろう。
下り撮影の結果報告などで再び話が弾み、
話は上りをどこで撮るか、という話になったが、やはり第1橋りょうは外せないらしい。
こればかりは、宮島水中花火でいう「鳥居」みたいなものなのだろうか。
やはり写真を見て誰もが肥薩線を走るSLだとわかる写真が理想なのである。
SLファンなら望遠でSLだけ中心に撮る人もいるだろうけど、そこが撮影者の拘りが出る面白いところでもある。

12時45分、向かいの道路にカメラマンは集中。
誰もがSLを正面もしくは、斜め前から狙おうとしているのだろう。
そんな中、斜め後ろから狙っている人はたった1人。
きっと向こうにいるカメラマンからは、邪道扱いされているに違いない。
お蔭様でこの美しい風景を見ながらのんびり時間を過ごす事が出来て、邪道も捨てたもんじゃない。
川辺に降りてみると水が澄んだように綺麗でたくさんの小魚が群れを生して泳いでいた。
まだまだ時間があるので本格的な構図、露出の設定は後にして、昼食を食べて眠くなったのでしばし仮眠。
車を木の陰に止めて心地よい風を浴びていると、本当に時間の流れを忘れさせてくれるような場所だった。
30分ほどウトウトしていると車のエンジン音がしたので、
ついに邪道スポットにもカメラマンがやってきたかと思いきや、先ほどの青年とおじさんだった。
たしか、向かいの道路で姿を見かけて機材をセットしていたはずでは!?
日差しや風向きの関係でこちらへ移動してきたらしい。
それから、しばらくの間、暑い日差しの中でまたしても鉄道会話で時間が流れていった。
その時に、SL撮影において、風向き、湿度、太陽の位置など把握しておかなければならないことを知った。
鉄道関係は無知に近いので、こうした被写体ジャンルの違う人と話をするといろいろと勉強になったりする。
実は、SL撮影も奥が深かったのだ。

上りのSL人吉号が第1橋りょうを通過するのは、大体16時30分。
それまで太陽がどこまで沈むかによって、運命が左右される。
出来るだけSLや裏山、周りの景色全体に日差しが当たってほしい。
そんな願いが届いたのか、SLの汽笛が鳴り響いた時は、山や鉄橋に日差しは当たっていた。
まさにシャッターチャンス!
SL人吉号は多くのカメラマンに見守られながら第1橋りょうを通過したのだった。
日差し、風向きもベストに近く、最後の最後で本当に良い条件の中で撮影出来たと思う。
邪道な角度だったかもしれないが、人気撮影スポットに廻りには二人しかいなくて、
しかも最高の条件で撮影出来たものだからみんな満足していた。
煙もたくさん吐いて、これでもう引退なのか?と思うと寂しさで一杯だった。

横浜から来た青年は、レールスターで岡山まで戻り、寝台に乗って横浜まで戻るという、まさに鉄道ファンならではの帰路。
おじさんは福岡から来ているので、もしかしたら来週また会えるかもしれない。
短い間だったけど、とても楽しい時間を過ごさせてもらえたことに感謝。






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